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財務分析とは?やり方や指標の基本について公認会計士が解説

財務分析とは、企業の財務諸表をもとに経営状態を数値で評価する手法です。経営者、投資家、金融機関、コンサルタントなど、さまざまな立場の人が意思決定の根拠として活用しています。特に中堅企業においては、財務分析を通じて「決算書だけでは見えにくい課題」を発見し、改善施策につなげることが重要です。

本記事では、財務分析の基本項目を体系的に解説しつつ、業種別の目安や改善施策の例も交えて、実務に役立つ視点を提供します。

目次

財務分析とは?

財務分析の目的は、単なる数値の確認ではなく、「意思決定の質を高めること」にあります。「収益性」「安全性」「効率性」「成長性」など、分析の軸をもって、財務諸表を分析することで、企業の経営状況が可視化され、現時点での課題やボトルネックが明らかになります。こうした現状把握は、将来の投資判断や資金計画を立てるうえでの重要な判断材料となります。

また、財務指標を用いて改善目標を設定することで、施策の具体性が高まり、実行後の効果測定も可能になります。改善の進捗を数値で追えるため、経営者や現場が共通認識を持ちやすくなる点も大きな利点です。

さらに、自社の財務分析結果を業界平均や競合他社と比較することで、自社のポジションや競争力を客観的に評価することができます。このように、財務分析は単なる数値の確認にとどまらず、企業の体質や将来性を数値で読み解くための実践的なツールになります。

財務分析に欠かせない書類

財務分析を行うには、企業の財務三表である、貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、キャッシュ・フロー計算書(CF)の情報が不可欠です。これらの資料をもとに、収益性・安全性・効率性などの指標を算出し、経営状態を多面的に評価します。

1. 貸借対照表(BS)

企業のある特定時点における企業の財政状態を「資産(企業が持っている財産)」「負債(企業が返済すべき義務があるお金)」「純資産(資産から負債を引いた残り)」の3つの要素で示します。企業がどのような資産を持ち、その資産をどのような資金(借入や自己資本)で賄っているかを把握します。
財務の安定性や資金調達の状況を評価するために使われます。

2. 損益計算書(PL)

一定期間の「売上」「費用」「利益」を示します。企業が本業や本業以外でどれだけの収益や費用が発生し、全体としてどれだけの利益を生み出しているかを把握します。一言でいえば、会社がどれだけ儲かったかを示す成績表のようなものです。収益性やコスト構造の健全性を評価するために使われます。

3. キャッシュフロー計算書(CF)

一定期間の「現金の流れ(収入と支出)」を営業・投資・財務の3活動に分けて示します。営業活動区分では、本業による現金の増減を表します。投資活動区分では、設備投資や資産の売買による現金の増減を表します。財務活動区分では、資金調達や返済による現金の増減を表します。利益が出ていても、現金がなければ倒産します。実際の現金の動きを見ることで、資金状況が健全かをチェックします。

財務分析の4つの視点

財務分析は、以下の4つの視点で行われます。

分析軸主な目的代表指標
収益性利益を生み出す力の評価売上総利益率、営業利益率、ROA、ROIC
安全性倒産リスクや支払い能力の評価流動比率、固定比率、固定長期適合比率、自己資本比率
効率性資産の活用度の評価総資産回転率、売上債権/仕入債務/棚卸資産回転期間
成長性売上の利益の伸び率の評価売上高成長率、利益成長率

これらの指標は、単独で見るのではなく、相互に関連づけて分析することで、より深い洞察が得られます。

財務分析の基本的な指標

(1)収益性指標

売上高総利益率
売上高総利益率は、売上高に対する売上総利益の割合を示します。売上総利益は、仕入れや製造にかかる直接的なコストを差し引いた本業により獲得された利益です。本業の生産活動によって生み出された収益力を示します。

以下の計算式で求めることができます。

売上総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100

当該財務分析は、コスト構造の健全性を評価し、価格戦略の妥当性を検証するために使われます。この指標を改善するための施策としては、原価の構造の見直し、商品・サービス構成の再設計、単価・販売戦略見直し等が考えられます。

なお、業種別目安は、以下の通りです。

  • 製造業:20〜40%
  • 小売業:25〜35%
  • 飲食業:60~70%
  • サービス業:70〜90%


・営業利益率
売上高営業利益率は、売上高に対する営業利益の割合を示します。上記の売上総利益から広告宣伝活動等の間接的なコストを差し引いた利益であり、本業の収益力を示します。以下の計算式で計算されます。

営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100

当該財務分析は、コスト構造の検証、販管費の適性判断、価格戦略の評価に使います。この指標を改善するための施策としては、原価の見直し、販管費の削減、値上げ交渉等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:5〜10%
  • 小売業:2〜5%
  • 飲食業:3~6%
  • サービス業:10〜20%

・ROA(総資産利益率)
ROAは総資産に対する当期純利益の割合で、資産の収益性を示します。以下の計算式で計算されます。

ROA = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100

総資産は、会社財産ともいえますが、調達した資金の運用方法を表しているとも言えます。そのため当該財務分析は、運用している全資産に対して、利益をどの程度生み出せているか、すなわち、設備投資や資産運用の効率性を評価します。この指標を改善するための施策としては、遊休資産の売却、在庫圧縮、利益改善等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:3〜6%
  • 小売業:2~4%
  • サービス業:5〜10%

・ROIC(投下資本利益率:Return on Invested Capital)
ROICは、企業が投下した資本に対して、どれだけ利益を生み出しているかを示す指標。資本効率の最終評価軸です。以下の計算式で計算することが可能です。

ROIC = NOPAT(税引後営業利益) ÷ 投下資本 × 100
※投下資本 = 有利子負債 + 自己資本 − 非事業資産

当該財務分析のROICは、ROAと比較して、利益は営業利益から税金を差し引いた金額を用います。さらにROAは資産全体の総資産を分母に使用するのに対して、ROICは有利子負債と自己資本の調達資金から、事業で使用されていない資産を控除した投下資本を用いて、事業活動に使われている資本の収益性を評価します。ROAよりも事業の実態に近い指標です。

この指標を改善するための施策としては、NOPATの向上(営業利益改善)、投下資本の最適化(資産圧縮・借入削減)、不採算事業の整理と再投資等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:5〜10%
  • 小売業:4~8%
  • サービス業:10〜20%

(2)安全性指標

・流動比率
流動比率は、流動資産に対する流動負債の割合で、短期支払能力を示します。計算式は以下になります。

流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100

当該財務分析は、資金繰りの健全性を評価し、一般的に120%以上が望ましいと言われています。この指標を改善するための施策としては、売上債権の回収強化、短期借入金の見直し等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:120〜150%
  • 小売業:100〜120%
  • サービス業:120〜160%

・固定比率(固定資産自己資本比率)
固定比率は、固定資産がどれだけ自己資本で賄うことができているかを示し、企業の長期的な財務安定性を測ります。以下のような計算式で計算されます。

固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100

当該財務分析は、前述のように自己資本で固定資産をどれだけ賄えているかを評価します。固定資産は長期的に回収される資産であるため、短期資金で賄うと資金繰りに悪影響を及ぼします。固定比率が低いほど、財務の安定性が高いとされます。固定比率が高すぎる状態は、自己資本が固定資産に偏って使用され、短期的な支払いに資金を向けることができず、資金繰りの悪化や短期支払能力の低下につながるため、注意が必要です。

この指標を改善するための施策としては、利益の内部留保による自己資本の増強、遊休固定資産の売却や減損処理、過剰な設備投資の抑制等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:60〜100%
  • 小売業:30〜70%
  • サービス業:20〜50%

※100%を超える場合は、自己資本だけでは固定資産を賄えておらず、借入依存が高い状態です。

・固定長期適合比率(固定資産長期資本適合率)
固定長期適合比率は、固定資産が自己資本と長期負債でどれだけ賄われているかを示し、固定資産の資金源が長期性であるかどうかを評価します。計算式は以下のようになります。

固定長期適合比率 = 固定資産 ÷(自己資本 + 固定負債) × 100

当該財務分析は、固定資産は長期的に回収されるため、長期資本で賄うのが望ましいです。この比率が100%以下であれば、固定資産が長期資本で賄われており、資金繰りの安定性が高いと判断されます。また、この指標は、金融機関が融資判断を行う際にも重視されます。特に設備投資を伴う融資では、固定資産が長期資本で賄われているかどうかが信用評価に直結します。

この指標を改善するための施策としては、長期借入の導入による資金源の安定化、設備投資の見直しと資金調達計画の再設計、自己資本比率の向上による長期資本の強化等が考えられます。

・自己資本比率
自己資本比率は、企業の総資産のうち、自己資本(返済不要の資本)がどれだけ占めているかを示す指標です。企業がどれだけ「自分のお金」で事業を運営しているかを表し、財務の安定性や倒産リスクの低さを測ります。計算式は以下のようになります。

自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資産 × 100

当該財務分析において、自己資本が厚いほど、外部環境の変化に強く、倒産リスクが低いと判断されます。融資審査では、自己資本比率が重視され、一定水準以上であれば、借り入れ条件が有利になることもあります。
一方で、自己資本比率が高すぎる場合、内部留保が多く、成長投資に消極的である可能性もあり、バランスが必要です。この指標を改善するための施策としては、利益剰余金の増加、増資の検討、借入金の削減等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:30〜50%
  • 小売業:20~40%
  • サービス業:40〜60%

(3)効率性指標

・売上債権回転期間(Receivables Collection Period)
売上債権回転期間は、売上債権(売掛金など)が何日分の売上に相当するかを示す指標で、回収効率と資金繰りに直結します。以下の計算式で計算されます。

売上債権回転期間 = 売上債権 ÷ 売上高 × 365(日)

当該財務分析は、売掛金の回収サイトを評価し、資金繰りの健全性を測ります。長期化すると資金が滞留し、借入依存が高まります。売上が伸び、利益も順調に計上されていても、回収が遅れていると当該指標は悪化します。そのため、資金繰りの「見えないボトルネック」を発見するのに有効です。

この指標を改善するための施策としては、回収条件の見直し(前金・短期サイト)、債権管理体制の強化(督促・与信管理)等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:45〜60日
  • 小売業:30〜45日
  • サービス業:20〜40日

・仕入債務回転期間(Payables Payment Period)
仕入債務回転期間は、仕入債務(買掛金など)が何日分の仕入原価に相当するかを示す指標で、支払サイトの長さを表します。計算式は、以下のようになります。

仕入債務回転期間 = 仕入債務 ÷ 売上原価 × 365(日)

当該財務分析は、支払条件の評価と資金繰りの調整に使います。支払サイトが長ければ資金繰りは楽になりますが、取引先との関係に注意が必要です。ここで、売上債権回転期間と仕入債務回転期間の差が「運転資金の重さ」に直結します。売上債権回転期間は短く、仕入債務回転期間は長く、が理想となります。この指標を改善するための施策としては、支払サイトの交渉(長期化)、支払タイミングの平準化、サプライヤーとの関係強化による条件改善等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:45〜70日
  • 小売業:30〜60日
  • 建設業:60〜90日

・棚卸資産回転期間(Inventory Holding Period)
棚卸資産回転期間は、棚卸資産(原材料・仕掛品・製品など)が何日分の売上原価に相当するかを示し、在庫の滞留度合いを測ります。以下のような計算式で求めることができます。

棚卸資産回転期間 = 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365(日)

当該財務分析は、在庫の効率性と資金滞留リスクを評価し、在庫の滞留が長いほどキャッシュフローに悪影響を及ぼします。そして、当該回転期間は、資金繰りと在庫管理の両面に関わるため、製造業では特に重要になります。この指標を改善するための施策としては、生産リードタイムの短縮、発注点・ロットサイズの見直し、不動在庫の処分・再販等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:60〜120日
  • 小売業:30〜60日
  • 卸売業:45〜90日

・総資産回転率(Asset Turnover Ratio)
総資産回転率は、企業が保有する総資産を使って、どれだけ売上を生み出しているかを示し、資産の活用効率を測ります。計算式は以下のようになります。

総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産

当該財務分析は、資産が売上創出にどれだけ貢献しているかを評価します。資産が過剰であれば回転率は低下し、効率性が悪化します。少ない総資産で出来るだけ多くの売上を上げることが理想で、この場合資産が効率的に使われており、回転率が増加します。
そして、総資産回転率の分母は、ROAやROICの分母に関係するため、総資産回転率を高めて資産活用の効率性を高め、ROAやROICを高めて投下した資産に対して収益性を高めることが重要となります。

この指標を改善するための施策としては、遊休資産の売却、在庫圧縮による資産軽量化、売上増加施策(販路拡大・単価向上)等が考えられます。

なお、業種別目安は以下の通りです。

  • 製造業:0.8〜1.5回
  • 小売業:2.0〜4.0回
  • サービス業:1.0〜2.0回

(4)成長性指標

・売上高成長率
売上高成長率は、一定期間における売上高の増加率を示し、企業の市場拡大力や顧客獲得力を示します。計算式は以下になります。

売上高成長率 = (当期売上高− 前期売上高)÷ 前期売上高 × 100

当該財務分析は、事業の拡張性や市場での成長力を評価し、新規顧客獲得や販売チャネル拡大の成果を測定します。売上高成長率が高くても利益が伴っていない場合は、コスト増や価格戦略の見直しが必要です。

この指標を改善するための施策としては、新規市場への参入(地域・業種)、既存顧客の深耕、販売チャネルの多様化(EC、代理店、直販)、商品・サービスラインの拡充等が考えられます。

・利益成長率
利益成長率は、一定期間における利益(営業利益または当期純利益)の増加率を示し、企業の収益性向上やコスト管理力を測ります。以下の計算式で計算されます。

利益成長率 = (当期利益− 前期利益)÷ 前期利益 × 100

※利益は、主に「営業利益」「当期純利益」で定義します。目的に応じて使い分けます。

当該財務分析は、収益構造の改善度合いを評価し、原価・販管費のコントロール力を測定します。売上が横ばいでも利益成長率が高ければ、コスト構造の改善が進んでいる可能性があります。
また、ROEやROICとの連動分析による資本効率評価に役立ちます。ROEでは当期純利益、ROICではNOPAT(税引後営業利益)が使われますが、利益成長率が高くても、資本効率が悪ければROEやROICは高くならないかもしれません。逆に、利益が少ししか増えなくても、資本効率がよければ高くなるかもしれません。
すなわち、利益成長率だけでなく、「その利益をどれだけ効率よく資本で生み出しているか」をROEやROICと連動させて分析することで、資本効率という企業の本当の実力が測れます。

この指標を改善するための施策としては、原価低減(材料費・外注費・工程効率)、販管費の最適化(広告費・人件費・間接費)、高粗利商品の比率向上等が考えられます。

財務分析の実務活用ステップ

財務三表(B/S、P/L、C/F)を準備
まずは基本となる財務三表を揃えます。
この財務三表を揃えることで、企業の「体質」「収益力」「資金繰り」等多面的な分析が可能になります。また、財務分析では、過去からの推移をみることも重要になるため、できれば過去3期分、少なくとも2期分は準備します。

②基本指標で全体像を把握
主要な財務指標をつかって、企業の全体的な状態を把握します。自己資本はどの程度あるか、利益は継続的にどの程度出ているか、現預金や流動資産は十分かを把握します。
この段階では、異常値や偏りがないかを確認し、どこに注目すべきかの方向性を定めます。

③詳細指標で課題を特定
流動性に問題がありそうであれば、売上債権/仕入債務の回転期間に注目、自己資本が十分でなさそうに感じたら、自己資本比率はどの程度あるか等、より細かい指標を使って具体的な課題を洗い出します。このステップで改善すべき領域を明確にします。

④業界平均や過去推移と比較
自社の一時点の数値だけでは、良い悪い、の判断が難しい場合があります。その場合、業界平均との比較や、過去からの推移をみて、改善傾向にあるのか、悪化傾向にあるのかを把握します。そして、それぞれの項目を比較することで、「何が異常となっているのか」「悪化傾向となっているのはどこなのか」が見えてきます。

⑤改善施策を立案・実行
特定された課題に対して、具体的な改善施策を話し合い、実行します。
資本構成を見直し自己資本比率を改善する、回収や支払いサイトを見直して流動資金を確保する等です。財務指標を目標値として設定することで、施策の具体性と納得感が高まり、従業員との共有も可能となります。これにより、財務分析が「実行可能な経営改善計画」に変わります。

⑥定期的に再分析しPDCAを回す
改善施策の効果を測定し、必要に応じて再調整を行います。効果測定の頻度は、毎月、四半期、年度などが一般的ですが、自社の状況や改善すべき指標に応じて、その頻度を設定します。財務分析は一度きりではなく、継続的にPDCAを回すことで、経営の質を高め続けるツールになります。

この流れを実行することで、企業の財務体質は着実に改善されていきます。

業種別の改善施策例

財務分析は、業種や企業が抱える課題にあわせて活用することができます。実際に財務分析を活用して改善された事例を各業種ごとに一部ご紹介していきます。

製造業の改善事例

中堅製造業の経営者から、「利益は出ているはずなのに、なぜか資金繰りが苦しい」という相談がありました。財務三表をもとに分析を行ったところ、材料費の比率が高く、また在庫が過剰に積み上がっていることが判明しました。

そこで、原価構造の見直し(外注費・材料費の最適化)と、在庫回転率の改善による在庫圧縮に取り組んだ結果、月次のキャッシュフローが大幅に改善し、資金繰りの安定化につながりました。

改善後には、「数字の裏にある課題が見えるようになった」「財務分析が経営判断の軸になった」との声をいただき、現場と経営の間で共通言語として財務指標が活用されるようになりました。

小売業の改善事例

ある地域の小売企業から、「売上は安定しているが、利益が伸びず、資金繰りも苦しい」という相談がありました。財務分析を通じて、在庫回転率の低さと店舗運営コストの重さ、さらに客単価の伸び悩みが課題であることが明らかになりました。

そこで、まずは在庫回転率の向上を目指し、売れ筋商品の絞り込みと在庫管理の徹底に取り組んだ結果、在庫量が削減され、キャッシュフローが改善しました。次に、販管費の中でも店舗運営コスト(人件費・光熱費・販促費)を見直し、無理のない範囲でコスト構造を最適化しました。

改善後には、「数字で課題が見えるようになったことで、現場の意識が変わった」「店舗ごとの収益性を意識した運営ができるようになった」との声があり、財務指標が経営と現場をつなぐ共通言語として活用されるようになりました。

サービス業の改善事例

ある教育系サービス企業から、「売上は安定しているが、利益が伸びず、どこに改善余地があるのか分からない」という相談がありました。財務分析を通じて、売上高に対する人件費の比率が高く、生産性にばらつきがあること、また固定費の割合が高く、損益分岐点が高止まりしていることが課題として浮かび上がりました。
そこでまず、売上高/人件費の比率を算出し、業務内容と人員配置の見直しを実施。結果として、全社平均で人件費生産性が改善しました。次に、固定費の一部を成果報酬型や外部委託に切り替えることで、コスト構造を変動化し、損益分岐点を引き下げる施策を導入。これにより、売上変動に対する利益の安定性が向上しました。

改善後には、「数字で部門ごとの課題が見えるようになった」「利益構造を意識した運営ができるようになった」との声があり、財務指標が経営と現場の意思決定をつなぐ共通言語として活用されるようになりました。

財務分析を実施するときの注意点

数値だけで判断しない

数値だけでなく、業界特性や企業戦略も考慮する必要があります。財務分析はあくまで「結果」であり、その背景には業界特有の商習慣や企業の戦略的な選択があります。たとえば、粗利率が低くても高回転型のビジネスモデルで利益を確保している企業もあれば、利益率が高くてもニッチ市場で成長余地が限られている企業もあります。数値だけで「良し悪し」を判断すると、戦略的な意図や業界構造を見落とし、誤った改善提案につながる可能性があります。

単年度だけでなく、複数年の推移を見る

財務分析は一時点のスナップショットにすぎません。単年度だけを見ると、特別要因(例:一時的な大型受注、減損処理、補助金など)に左右されることがあり、実態を誤って評価してしまうことがあります。複数年の推移を見ることで、改善傾向・悪化傾向・季節変動などの「流れ」が見え、より本質的な課題や強みを把握できます。特に投資判断や中期計画の策定では、トレンド分析が不可欠です。

他社比較は慎重に

規模やビジネスモデルの違いに注意が必要です。財務分析を使った他社比較は有効ですが、単純な数値比較は危険です。企業規模が異なれば、固定費の吸収力や資本構成が違い、同じ指標でも意味が変わります。また、同じ業種でも直販型・代理店型・サブスク型など、ビジネスモデルの違いによって原価構造や収益パターンが大きく異なります。比較する際は、規模・モデル・地域・成長ステージなどを揃えたうえで、慎重に読み解く必要があります。

財務諸表の精度を確認

会計処理の違いが分析結果に影響します。財務分析は、財務諸表の正確性が前提です。しかし、減価償却の方法、棚卸資産の評価、引当金の計上基準など、会計処理の違いによって同じ指標でも数値が変わることがあります。特に中小企業では、税務重視の処理や、経営者の意向による調整が入っている場合もあり、分析結果が実態と乖離することがあります。分析前には、会計方針や特記事項を確認し、必要に応じて修正や補正を加えることが重要です。

まとめ

財務分析は、企業の「見えない部分」を数値で可視化する強力なツールです。基本指標を理解し、業種特性を踏まえて活用することで、経営判断の質を高めることができます。特に中堅企業においては、分析結果を「行動につながる示唆」に変えることが、改善の第一歩です。

財務分析・診断でお困りでしたら、現在の状況やご相談内容に合わせて改善案をご提案することも可能ですので、実績豊富な台東区の税理士・会計士にご相談ください。

※本記事は、専門家としての知見をもとに情報をお届けしていますが、記事の内容はあくまで一般的な参考情報です。実務での適用にあたっては、個別の事情を踏まえた対応が必要となりますので、必要に応じて適切な助言を受けてください。

この記事を書いた人

松橋 寛朗のアバター 松橋 寛朗 公認会計士・税理士

資金繰りのなやみを解決!
経営者の経営判断支援パートナー。

1981年生まれ|新潟県糸魚川市生まれ|栃木県立大田原高等学校卒|明治大学卒
大手監査法人・税理士法人・国際会計事務所での経験を経て、
2019年1月に「松橋公認会計士・税理士事務所」を開業。

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